report_problem しくじり事例:「あげあげ写真を語る」
あるグループは、「あげあげ」というテーマで、自分のスマホから写真を1枚選び、その写真について語るワークを企画しました。 写真を選ぶ。その写真について話す。みんなで聞く。
一見するとABRらしく見えます。写真を使っているし、自分の経験を語っているし、対話もしています。 しかし、実際にやってみると、どこか物足りなさが残りました。
- それで、何が見えてくるのか?
- この実践を通して、何を問いたいのか?
- 個人の思い出を紹介して終わっていないか?
- リサーチの要素はどこにあるのか?
このワークがつまらなかった理由は、「あげあげ」というテーマが悪かったからでも、写真を使ったことが悪かったからでもありません。 問題は、写真を選んで語ることが目的になってしまい、その経験を通して何を探究するのかが見えていなかったことです。
compare_arrows 「活動」と「リサーチ」の違い
同じワークでも、設計のしかたによって、単なる活動にも、リサーチにもなります。
- あげあげな写真を選んで紹介する
- 楽しい思い出の共有で終わる
- 「みんないろいろあるね」で締める
- 私たちはどんなとき"楽しそうな自分"を見せようとするのか
- 写真には、どんな自分が写り、どんな自分が写っていないのか
- "あげあげ"でいることは、誰に求められているのか
- "ノリがいい"場で"ノれない人"はどうなるのか
- SNSに見せられる感情と、見せにくい感情はどう違うのか
warning_amber よくある「弱い終わり方」
ゼミでABR実践をすると、次のような終わり方になりがちです。 もちろんこれらは大切な気づきですが、リサーチとしてはもう一歩進む必要があります。
- みんないろいろな経験があることがわかった
- 人それぞれ感じ方が違うと思った
- 自分とは違う考えを知ることができた
- いろんな価値観があると感じた
- なぜ、そう感じ方が違うのか。
- その違いは、どのような経験や関係性から生まれているのか。
- どのような価値観が、当たり前のものとして働いているのか。
- 誰の声が語られやすく、誰の声が語られにくいのか。
- その場で、どんな空気や力関係が生まれていたのか。
visibility ABRをリサーチにするための5つの視点
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1個人の経験から、社会のルールを見る
ある人が語った経験には、その人個人の思いだけでなく、社会のルールや期待が表れていることがあります。 「あげあげ写真」なら——
- なぜ楽しそうな写真を選びたくなるのか
- なぜ元気な自分を見せたいのか
- なぜ落ち込んでいる写真は選びにくいのか
- なぜ「ノリがいい」ことがよいこととされるのか
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2見えているものと、見えていないものを見る
写真や作品には、見えているものと、見えていないものがあります。作品や語りの「表面」だけでなく、その背後にある感情・関係性・沈黙・違和感を見ていきます。
- この写真には何が写り、何が写っていないのか
- 語られたことは何か。語られなかったことは何か
- 見せられる自分と、見せにくい自分はどう違うのか
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3「人それぞれ」で終わらせない
「人それぞれだね」は対話をやさしく終わらせる言葉です。しかしリサーチでは、「人それぞれ」の先にある構造を見にいきます。
- なぜそれぞれ違うのか——その違いはどんな経験から生まれているのか
- その違いは、社会の中でどのように扱われているのか
- 違いが尊重される場面と、尊重されない場面はどこにあるのか
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4場で起きたことをデータとして見る
ABRでは作品だけでなく、実践の中で起きた出来事もデータになります。それは場の空気・関係性・安心感・権力・社会的前提を表していることがあります。
- 誰がよく話したのか。誰が黙っていたのか
- どの場面で笑いが起きたのか
- どの問いで場が止まったのか
- ファシリテーターはどこで困ったのか
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5予想外の出来事を大切にする
うまくいかなかった出来事は失敗ではなく、分析の入口になります。「うまくいかなかった」ことを丁寧に見ることで、実践をリサーチに変える力が育ちます。
- なぜつまらなかったのか
- 何が起きなかったのか
- どこに問いが足りなかったのか
- 活動はあったけれど、探究が起きなかったのはなぜか
construction 「あげあげ写真」をリサーチに変えるなら
元の活動は「あげあげな写真を1枚選び、その写真について語る」というものでした。 これをリサーチに変えるなら、たとえば次のように設計できます。
- スマホから「あげあげ」に見える写真を1枚選ぶ
- 表の語り:「これは楽しかった写真です」「このとき気分が上がりました」
- 裏の語り:「この写真に写っていないことは何か」「本当は少し気になっていたことは何か」
- 聞き手は、見えているものと見えていないものの違いについて質問する
- 「私たちはどんな自分を見せ、どんな自分を隠しているのか」を話し合う
- 写真を1枚選ぶ(本人はまだ説明しない)
- 他の人が、その写真にタイトルをつける
- そのあと、本人が写真の意味を語る
- 他者の読み取りと本人の意味づけのズレを話し合う
- 「あげあげになれない」「気分が上がらない」写真を1枚選ぶ
- なぜその写真を選んだのかを語る
- どんな場面で、人は元気でいることを求められるのかを話し合う
- 「ノリ」「明るさ」「ポジティブさ」が場の中でどう働いているかを考える
checklist リサーチにするためのチェックリスト
自分たちの実践を考えるとき、次の問いで確認してみましょう。
- ただ楽しい活動になっていないか
- 参加者に何を考えてほしいのか
- この実践を通して、どんな問いが立ち上がるのか
- 「私の話」で終わっていないか
- その経験は、どんな社会的な期待や価値観と関係しているか
- 人と人との関係性がどう見えてくるか
- 見えているものだけでなく、見えていないものを問えているか
- 語られたことだけでなく、語られなかったことに注目しているか
- 沈黙、戸惑い、違和感を大切にしているか
- 誰が話したか。誰が黙ったか
- どこで場が動いたか。どこで場が止まったか
- 予想外の出来事はあったか
- 多様性を確認するだけで終わっていないか
- なぜその違いが生まれるのかを考えているか
- その違いが社会の中でどう扱われるのかを問えているか
しかし、個人の語りを共有して「みんないろいろあるね」で終わってしまうと、リサーチとしては弱くなります。
活動をするだけでは、研究にはなりません。
その活動を通して、何が見えたのか。何が語られ、何が語られなかったのか。誰がどのように反応したのか。そこから、どんな問いが立ち上がったのか。
これを考えることで、ABRは単なるワークショップではなく、リサーチになります。
失敗した実践、つまらなかった実践、途中で止まった実践も、大切な学びになります。
なぜなら、そこには「何がまだ問いになっていなかったのか」が表れているからです。
文責:岸磨貴子研究室