はじめに:映像を見たあとで
夢ナビ講義映像では、岸 磨貴子先生がこれまで出会ってきた人々や場所、そしてそこから生まれた問いについてお話しでした。 このページでは、その内容をゆっくり読み返せるように整理しています。
人や世界とどのように関わるかによって、見えてくる世界が変わってしまうのは、なぜだろう。
その問いから、岸 磨貴子先生の研究は始まりました。
私がいま取り組んでいること
私は、異なる文化的・言語的背景をもつ人たちが一緒に過ごし、関わり、表現する場をつくっています。
そこでは、ただ話し合うだけではありません。 演じる、描く、写真で語る、身体を動かす。 そうした活動を通して、自分でもまだ言葉にできていない感覚や、他者との関係の変化に触れていきます。
実践の場で行うこと
演劇、絵、写真、身体表現などさまざまなアート表現や表現されたものを通して、ことばだけでは見えにくい気持ちや関係の変化に近づいていきます。
この研究の名前
こうした、表現を通して、 人や世界との関係の中で理解を深めていく実践と研究を、アートベース・リサーチ(Arts-Based Research:ABR)と呼んでいます。
なぜ、この探究が始まったのか
高校生のころ、私の夢は冒険者になることでした。 その後、阪神・淡路大震災でのボランティア経験や、世界各地を旅する経験を通して、ニュースや教科書だけでは見えてこない人々の声や語りに出会いました。
自分は、どんなふうにこの世界と関わっていたのだろう。
その関わり方によって、見えていたものは、どう変わっていたのだろう。
シリアで出会った人々
もっと深く現場に身を置きたい。 そう思って向かったのがシリアでした。
そこで私は、パレスチナ難民の教育に関わりました。 出会った人々は、私にとって家族のような存在になり、シリアは「もうひとつの母国」のような場所になりました。
しかし2011年、内戦が始まります。 人々は暮らしていた場所を離れ、トルコ、ヨルダン、ギリシャなどへ避難していきました。
どうすれば、共に生きていけるのか
避難先では、新しい生活が始まる一方で、言葉や文化、価値観の違いから、衝突やすれ違いも生まれていきました。
そのとき、私は考えました。
異なる背景をもつ人たちが、ただ同じ場所にいるだけではなく、 つながりを感じながら共に生きていくには、何が必要なのだろう。
一緒に遊ぶ、一緒につくる
トルコやギリシャでの活動では、人々が一緒に遊び、身体を動かし、舞台や表現をつくる中で、関係が少しずつ変わっていく場面がありました。
それは、誰かが説明したから起きたわけではありません。 言葉で「理解しよう」としたからだけでもありません。
変化のきっかけ
一緒にいること。一緒に何かをすること。その時間の中で、気持ちが行き交い、身体の感覚が共有されていきます。
見えてきた可能性
人と人との関係は、説明だけで変わるのではなく、共に過ごし、共につくる経験の中で変わることがあると感じました。
アートベース・リサーチへ
言葉だけではとらえきれないものに、どう触れることができるのか。 人と人とのあいだにある、まだはっきりしない感覚や関係に、どう近づくことができるのか。
その問いから、私はアートベース・リサーチに関心を持つようになりました。
ABRは、うまく表現するための方法ではありません。
自分でもまだよく分かっていないことに出会うための方法です。
わからなさを抱えたまま、関係をつくる
違いとともに生きるというのは、分かり合うことをゴールにすることではありません。
むしろ、分からなさを抱えたまま、関係をつくり続けていくこと。 そのためのひとつの方法として、表現やアートは、新しいコミュニケーションの可能性をひらいてくれるのかもしれません。
- 違いをなくすのではなく、違いとともにいること
- ことばにならない感覚に、表現を通して近づくこと
- わからなさの中でも、関係をつくり続けること
もっと知りたい人へ
あなたなら、 まだよく分からないことに出会ったとき、 どんなふうに関わりますか?
この問いに、すぐにひとつの正解があるわけではありません。 だからこそ、探究は、出会いの中から少しずつ形になっていきます。