概要

国際日本学部 岸ゼミでは、共に学び、発達するための「場のデザイン」をテーマの一つとして、 アートベース・リサーチ(Arts-Based Research:ABR)の実践と研究を行っています。 ゼミでは、コミュニケーションのデザイン、メディアのデザイン、場のデザイン、問題解決のデザインに関する理論を学び、 専門的な知見を深めています。

その一環として、足立区のNPO法人アフォールと連携し、「子どもたちの遊び支援活動」に取り組んでいます。 2025年11月には、岸ゼミの学生が「モコモコどうぶつ」と「光のスコープ」をテーマに、二つのワークショップを実施しました。

以下に、その実践内容と、本実践に取り組んだ学生たちからの報告を紹介します。

実践1:もこもこ絵の具で相棒を作ろう!

シェービングフォームに絵の具を加えることで、ふわふわとした独特の質感の絵が描けるという情報を インターネットで見つけたことをきっかけに始まった企画です。学生同士の試作段階から、 もこもこ絵の具で描く体験は新鮮で、楽しさを感じるものでした。一方で、材料であるシェービングフォームは しぼみやすく扱いが難しいため、当日まで準備や進行に不安も残りました。

当日は、会場周辺地域の子どもたちが10名ほど参加してくれました。 コップに入れたシェービングフォームに絵の具を少量垂らし、割り箸でかき混ぜて 「もこもこ絵の具」を作るところから、子どもたちに楽しんでもらいました。

「ふわふわで、心にいつも寄り添ってくれる、自分だけの相棒を作ろう!」というテーマのもと、 子どもたちはモコモコ絵の具に加え、ビーズやスパンコールを使いながら、 想像をはるかに超える個性豊かな相棒を次々と生み出してくれました。

ワークショップの最後には、完成した相棒について共有する時間を設けました。 自分が描いた存在を「心の中に住む相棒」として語ることで、子どもたちは作品への思いをより実感している様子でした。

実践者の声

今井菜々美(3年)

「相棒をつくろう」という漠然としたテーマにもかかわらず、子どもたちは迷いながらも手を動かし、 それぞれの相棒を次々と形にしていきました。その姿から、子どもたちの想像力や創造力の豊かさに心を動かされ、 私自身も自然と笑顔で関わることができました。

一方で難しさを感じたのは、声かけの仕方です。子どもたちが心の中に持っている相棒のイメージを、 大人である私の価値観で壊してしまわないようにしながら、さらに想像が広がるような言葉を選ぶことの難しさを実感しました。 それでも一人ひとりと向き合いながら関わった結果、ワークショップの最後には全員が笑顔で作品を完成させていました。 この経験を通して、子どもの表現を尊重し、寄り添いながら関わることの大切さを学びました。

岩田恵都(3年)

小さな子どもと関わる機会が少なかった私にとって、アフォールで一から企画を作らせていただいた経験は、 とても新鮮で貴重なものでした。もこもこ絵の具が短時間の工作として実現可能か、 子どもたちに興味を持ってもらえるかといった点は、当日まで不安が残っていました。 しかし、その心配をはるかに超えて、子どもたちが楽しみ、盛り上がってくれたことは忘れられません。

助言をいただきながら、単に「質感の違う絵の具」を使うだけでなく、 「自分の相棒を作ろう」というテーマを設定したことで、学生と子どもたちの間に対話が生まれやすくなり、 より良い場になったと感じています。子どもたちの奇想天外な発想力に驚かされると同時に、 その自由さやエネルギーから多くの刺激を受けました。

根岸瑚南(3年)

余白があり、答えが一つではないというアートの良さを生かし、子どもたちにとって単なる工作ではなく、 何か「新しい価値」を生み出す体験となるような企画にすることは、大変でもあり、同時にとても楽しいプロセスでした。 当日、子どもたちが楽しんでくれるか不安もありましたが、もこもこ泡という非日常性と、 「自分だけの相棒」というコンセプトによって、子どもたちは興味津々で取り組んでくれました。

その姿を見て、アートは年代や性別、国籍を超えた普遍的なものであると感じるとともに、 ワークショップではゴールを決めすぎず、その場だからこそ生まれるものを楽しむ姿勢の大切さを学びました。

山岡廉(3年)

この企画に参加して印象に残ったのは、こうした活動を通じて、小さな子どもを持つ保護者同士が、 送り迎えをきっかけにコミュニティを形成している点でした。参加前には想像していなかった視点であり、 とても興味深く感じました。

私は企画段階では、子どもたちがどのように理科的な発見を得られるかを主に考えていましたが、 実際の場では、想定していなかった視点や気づきが多く生まれました。 体験者とともに発見していくプロセスそのものが、岸ゼミが実践するABRの重要な価値なのだと実感しています。 今後は、一つの目的にとどまらず、より多角的な視点からワークショップを捉えていきたいと考えています。

実践2:光のスコープ

一つの「思い出」をテーマに、子どもたちは透明なフィルムに、その思い出にまつわるものをいくつか描きました。 段ボールやトイレットペーパーの芯など、身近な素材を使ってデジタルカメラの形をしたスコープを制作し、 光が通るように組み立てます。

完成後は、フィルムに光を通して絵を壁に映し出し、「これはどんな思い出でしょう?」というクイズ形式で発表を行いました。 ほかの子どもたちは、映し出されたヒントをもとに、何の思い出かを考えながら答えます。

子どもたちは、自分の思い出から大切な要素を取り出し、言葉にして語ります。 また、聞き手となった子どもたちは、その語りに耳を傾け、思い出を共有する場が生まれました。 人前で話すことに慣れていない児童も、自分で描いた絵を手がかりに、伝えようとする姿が見られました。

未就学児から小学6年生まで、幅広い年齢の子どもたち約20名が参加し、低学年・高学年に分けた二部制で実施しました。

実践者の声

蛭間洋介(3年)

光のスコープ作りでは、「一番楽しかったこと」をテーマに、関連する絵を三つ描いて映し出してもらいました。 その中で、「こちらが意図したテーマをどう伝えるか」「作業手順を理解し、興味を持って参加してもらうにはどうすればよいか」 という点に悩みましたが、職員の方々とのミーティングを重ね、クイズ形式で導入することを決めました。

当日は、子どもたちが積極的に参加してくれ、「発言してほしいけれど時間が足りないかもしれない」と考えていた私にとって、 嬉しい悩みも生まれました。また、自分が難しいと想定していたことと、実際に子どもたちができることとの間にズレがあり、 驚かされました。こうした気づきは、時間をかけて準備し、実践したからこそ得られたものだと感じています。

太田陽菜(3年)

企画段階では、当日の創作内容だけでなく、子どもたちとのコミュニケーションの取り方や伝え方についても話し合いを重ねました。 限られた時間の中で満足感のある体験にするために、どこまで指示を出し、どこまで遊びの余地を残すか、 そのバランスの難しさを感じました。

当日、子どもたちは私たちの想定を超える発想で積極的に手を動かし、それぞれの表現を見せてくれました。 発表する子の話を真剣に聞き、想像を巡らせる姿も印象的でした。綿密な計画の重要性と同時に、 その場に集まった人たちだからこそ生まれる面白さを大切にし、柔軟に対応する「場づくり」を経験できました。

加藤琴子(3年)

本活動全体を通して、とてもあたたかく楽しい時間を過ごすことができました。 企画段階から私たちに任せてくださり、自由に準備を進められたことで、当日まで強い思いを持って運営することができました。

子どもたちの視点は本当に自由で、大人では思いつかない捉え方に、思わず笑顔になったり驚かされたりする場面が多くありました。 一方で、その場限りの出会いだからこそ、短い時間で心を開いてもらうことの難しさも感じました。 子ども一人ひとりに寄り添う姿勢の大切さを学び、今後のゼミ活動やさまざまな場面で生かしていきたいと考えています。

正解のない遊びの時間の中で、学生と子どもたちは、ともに感じ、ともに考える場をつくり出しました。 この実践は、岸ゼミが大切にしているアートベース・リサーチの学びを体現するものとなりました。