今日は、「中東の激動を考える」というシンポジウムに参加した。過去8年間、シリアでフィールドワークをしてきたので、現地の状況がかなり気になる。facebook等を通して友人から状況を教えてもらっているが、アカデミアではこの動きをどう捉えているのかを知りたくて参加した。如何、私が学んだこと、感じたことをつらつらまとめる。
【中東の激動は何故?】
中東の激動は、世代交代のための革命であるということができる。チュニジアのジャスミン革命の中心は平均29歳、エジプトは23?歳。中東では出生率が高いため、若年人口がかなり多い。彼らが成人すると、雇用の創出が必要となる。ところが、雇用の枠が少なく多くの人が失業状態とある。結果、貧富の差の広がりなどの社会問題がおこる。従来、イスラム教には相互扶助があり、富が国民に回っていないと草の根の助け合いがおこる。これまでの人はそうやってその状況を乗り越えてきたが、若い人がその状況を許せないと感じている。失業率の問題だけではなく、職のミスマッチも若者の大きなフラストレーションのひとつ。たとえば、工学を勉強した学生が、野菜を売っている。失業していないからという理由で、失業率に数えられていないが、一生懸命勉強したことが役立たないということが、若者のフラストレーションとなっている。私の友人ユーセフも以前私に言った。「まこは日本人だからがんばればがんばるほど未来が開けるが、ここではがんばっても、やりたい職を得られない。未来を描けない」といっていた。彼はエンジニアを専門としていて、英語もぺらぺらだったが、インターネットカフェのアシスタントのアルバイトを仕事にしていた。
【インターネットと革命について】
中東でSNSが盛り上がった理由は、正しい情報の渇望からである。「政府からの情報は信じられない!!」という政府への不信感が高まった。中東ではインターネットの情報も検閲されているし、政府批判などの情報を発信すると逮捕される。本当のことが知りたい、というニーズが高まっていった。インターネットの情報は、公共番組(テレビやラジオ)のように検閲しきれないところがある。多くの人が情報発信に参加しているため、多くの人がインターネットから情報を集めている。
しかし、中東ではパソコンによるインターネットの活用率は低い。なぜ、そういう情報が人々に入ってくるかというと、携帯電話である。固定電話の設置が高額で手間なのに対して、携帯電話は簡単に手に入る。携帯普及率が一番低いイエメンでも40%である。人々は、携帯電話を使ってインターネットにアクセスしている。他国ではだいたい1人一台ともいわれている。携帯電話には、写真や動画が撮影できる機能があり、さらにインターネットに接続えきるため、情報発信や情報収集が一般の人でもできるようになった。
インターネットを使って人々がみているのはfacebookである。中東では、facebookの利用率が非常に高い。チュニジア18%、エジプト8%、シリアは10%台という数だ。インターネットを使っている人のほとんどがはfacebookをつかっている。
このような中、あの事件がチュニジアでおこった。「ターリク・タイイブ(露天商の若者)が警察の取り締まり(殴った)に抗議して焼身自殺をはかる」という事件である。これがそもそものはじまりであった。これに対応した抗議デモが全国ではじまる。それを撮影した複数の人がアップし、広がっていった。
そもそも、女性警察官が 露天商の若者を殴ったというのが事実かどうかは分からない。ただ言えるのは、噓か本当かわからない情報が、その国の大統領を失脚させる力になったことということである。
インターネットによる情報は人々の考えや行動に影響を与える。革命側だけではなく、政府側もまたインターネットを通じて情報を流していく。そして、どのような情報が、人々の考えと行動に影響を与えるかが計算されていた。たとえば、デモのほとんどは、象徴的な場所で行われていた。これは、多くの人を巻き込むため(多くの人が参加できるように)と考えられる。他の事例として、エジプトの抗議デモにらくだの参入した映像もそれにあたる。政府側も革命側も、ネットを使って戦っていた。ネット上で意見を戦わせ、それぞれがそれぞれの立場から動画や情報をアップして、仲間を集めていた。
しかし、ネットに情報を載せているのは本当に現地の人なのだろうか?という疑問が生じる。実際、インターネットにアクセスできる人は限られているし、特にデモが始まってから制限もされている。シリアの「革命」と「反革命」のfacebook上での議論を例にとって考えてみよう。シリア革命2011というfacebookのコミュニティがある。そこで、議論している人たちのほとんどがシリアに住んでいない。アメリカや欧米に移民したシリア人である。彼らは、現地の情報を知り合いとの電話やメールのやりとりから得て、それを増幅させて発信していたのである。現地からの情報は、事実かどうかは誰も確認することができない。国外に出るプロセスにおいてどういう解釈が加わったかもわからない。実態の一部を表しているかもしれないが、それが多数派の意見を象徴するものでは決してない。声が大きい人が多数派の人であるとは限らない。しかし、ネット上で声を大きくして情報発信していると、それが多数派のように見えてしまうことがある。そして、それが国の大統領の失脚につながるのである。
【中東でのムーブメントのその後】
シリアを含み、この動きは未だ続いているが、中東全域で共通して見られることは、政府がfacebookなどを通して国民とインタラクションをとるようになったことである。これまでは、国民の意見を一切きかず政策が進められてきたが、国民の質問や抗議に対してすぐに答えるといったことがされるようになってきた。つまり世論に敏感な政府ができてきたということができる。この流れが、中東の人々にとって良い方に向かうのか、悪い方に向かうかは分からないが、価値観が変わる時代にはこういった革命が起こる。日本もそうであった。今後引き続き、アラブの状況から目を離せない。
(長くなったので、続きはまた今度)
詳細はコチラ↓↓↓
http://www.nihu.jp/events/2011/06/15/symposium/